研師が出会うよくある話
長くハサミの仕事をしているとお客様からのよくある疑問や要望、または「変だなぁ~」と思うことがいっぱいあります。
すこしコラム風に書いてみました。
レフティーの研磨は何故高い?
これは私が個人的に思うことなのですが・・・
左利きのお客様からよく「左利きの研ぎも同じ値段なので助かってます」と言われます。
レフティシザーの研磨を高めに設定している業者さんが多いのだと思いますが・・・
なんでなんでしょうね?
実は僕にも判りません(´・_・`)
研ぎの工程は全く同じです(少なくとも私は)
機械研ぎで左利きに対応していないとか・・・
(そんな馬鹿な!)
ただ単に儲けたいから・・・
(恐ろしや~)
理由は判りませんけど変な話だなぁと思うこの頃です。
ティッシュ伝説(切れ味確認方法)
研ぎあがったシザーの切れ味を確認する方法として有名なのが濡れたティッシュを切ってみる、というのがあります。
昔、木村拓哉主演のビューティフルライフっていうドラマのなかで美容師に扮する木村さんが濡れティッシュをカッコよく切って切れ味を確かめるシーンがありましたね。
・・・んが、
これってあんまり意味ないんですよね(^_^;)
いや、刃が付いているかどうかはこれで確認できるのですが、こと「切れ味」というものを確認する為には全くと言ってもイイくらい当てになりません。
はっきり言ってヘッタッピな研師が研いでもティッシュは切れます。
これをもって切れる、切れない(切れ味)を判断するのは出来ないのです。
私は毛束を使って確認しますが、本当は生きたヘアーで確認するのが一番ですね。
「切れ味」を左右するのに重要なのは、刃線(柳刃や笹刃)の形状を別にすれば、刃付は当然のことですが、特には表の磨きによって相当変わってきます。
研ぎの以来の際、「切れ味」について特にご要望が有れば一言ご用命下さい。
このハサミは研げません(´・_・`)
ハサミの研磨・調整・修理に関して、出来ないことはありません!
・・・と言いたいところですが、私にも出来ない研ぎがあります。
まずは分解できないはさみです。
単純にネジが錆等で固着しているもの。
またはメーカーによっては最初から分解不可のものもあります。(昔のメーカーでファキモスなんかがそうです)
あと今まで、1件、ネジが特殊過ぎて手も足も出なかったシザーも在りました。
分解できなければ砥石があてられません(´・_・`)
次に多いのがブレード部分に黒錆が入っている場合。
個人的にはもうプロ用シザーとしては引退ですね・・・
まだ、茶色い錆だったらなんとかなるかもしれないけど・・・
黒錆が入ると研いでも刃が付きませんしアール調整の際、高確率で折れます。
というか・・・はさみは錆びないようにきちんと手入れをしましょうね!
一日の終わりにセーム革で綺麗に拭くだけで全然ちがうのですから。
メーカーに出したら安心?
確かにお客様の心理からすれば購入した「人」に研磨依頼するのは当然だし、安心出来ると思いますよね。
多くの場合はディーラーさんや材料屋さんに依頼することになると思います。
でも、2週間も待って帰ってきたハサミの切れ味にガッカリした経験はないでしょうか?
でも、仲介してくれたディーラーさんや材料屋さんに要望を言っても埒が明ない・・・
メーカーに出したあなたのハサミはなんという「名前」の、どんな「顔」で、どれくらいの「職人歴」を持った人が研いだのでしょう?
個人的に思うのですが、私が技術者であったなら、自分の大事な道具は我儘の言える「顔」の見える人に頼みたいと思うなぁと思うのです。
研ぎに出したら細くなっちゃった(泣)
これは技術者が初めての研師に依頼する際に最も心配なことの一つですね。
残念ながらいまだによく聞く話ではあります。
切れる、切れない以前にシザーの形が変わってしまった!
なんてとんでもない話です・・・
確かにハサミの研磨というのは、言葉で云えば鋼材を削る行為ではあります。
だから、5年10年の間に少しずつ形は変わっていくものでとは言えるのですが・・・
ちゃんとした研師であればハサミの状態を見極め、それこそ薄皮を剥く様に研ぎます。
目に見えて細くなったり薄くなったりすることは絶対ありえません。
個人的に思うのは機械などで刃付けの角度を決めて一様に研ぐと削れすぎてしまう傾向があるのでは?と思う次第です。
ハサミの調整って何をするの?
「調整」ってどんな事をするのかご存知ですか?
お客様の中にはネジの強さを調整することと思っている方が多いのですが、それは研ぎ師のいう所謂「調整」では在りません。
開閉をきつく、或いはゆるくすることはお客様自身でも出来る事ですしね^^
色々な調整はあるのですが・・・
ハサミはよく見ると一直線で重なっている訳では在りません。
動刃、静刃がともに弧を描き、またヒネリをもちながら重なっていているので、本当に重なっているのは閉じている場合ですと先端の1点で交わっています。
このアール、ソリ(弧)がシザーにとって重要な要素の一つで、ハサミの切れ味に大きな影響を与えます。
ちゃんとした研師は必要に応じてアールを本来の状態にします。
当然、強すぎても弱すぎてもよくありません。
決して砥石と磨きだけではハサミは切れるようにはならないのです。調整あっての研磨なのです。
最近ではまったくハンマーを使わず、ソリ調整をしないで研磨のみで納品している研師もいるような気がしてならない今日この頃であります・・・
ステンレスとコバルトの違いは?
よく、シザー販売の際お客様に聞かれるのが鋼材の話。
「これは、ステンレスでですか?コバルトですか?」
少し専門的な話になりますが・・・
一般的にハサミの世界で「コバルト」と表現されているものも鉄(Fe)を基にした合金の一種なのです。
まず、ステンレス鋼とは鉄にクローム、ニッケルが含有されたもので且つ、炭素の比較的多く含まれたものがハサミの鋼材として使われます。
これに、コバルトを1%~3%混ぜたものが一般的にハサミでコバルト鋼と呼ばれるものです。
特徴として粘り強さ、耐食性、耐熱性が増すとされています。
ですから、どちらも鉄を基にしたステンレス合金と言えるのです。
比較的、高級シザーにコバルトが使用されていることからコバルト信仰がもてはやされています。
確かに、対摩耗という点で長切れするとは思いますが…
・・・んが、個人的には普通のステンレス鋼でも良く切れるハサミがいっぱいあると思ってます。
ハサミ購入の時は、あまり材質に拘らず、はさみの全体のバランス、精度、裏スキやソリ、刃線形状、ハンドル形状がしっくりくるかなど等で選びたいものです。